地域社会の人口減少と馬鹿者

地域社会とは人が生活を営む空間のことで、そこで人々が共同生活を営み、そのために管理し、維持するために組織や制度があります。地域の課題は、それぞれ異なりますが、多くの地域に共通する課題の一つである人口の減少とその対策について少し考えてみたいと思います。
総務省によれば、2024年10月1日現在の外国人を含めた日本の総人口は1億2380万2000人です。前年よりも55万人減少しました。都道府県別にみると人口が増加したのは、東京都と埼玉県だけです。東京都は1417万8000人で、前の年から9万2000人増加し、全国の11.5%を占め、前年より0.2ポイント増えています。埼玉県の人口は、733万2000人で、前年から0.01%増え、4年ぶりに増加しました。ということは日本国内のほとんどの地域では人口が減少しているということです。人口が減少すると次のような問題が発生します。
経済面では、国内需要が減少し、経済規模が縮小します。また、労働力の不足によって産業活動が停滞し国際競争力が低下することになります。何よりも地域経済が衰退すると国、地方の財政が危機に陥ります。さらに社会的には、高齢化とも関係しますが医療・介護費が増大して社会保障制度の給付と負担のバランスが崩壊します。特に人口が少なくなれば地域社会の活力が低下し、子どもの健全な成長にも影響が発生し、地域の人々の交流も疎遠になってしまいます。
地域社会を意味するコミュニティ(community)とは、共通の目的や興味を持つ人々の集まりや共同体のことです。語源は、ラテン語の「communitas(コミュニタス)」で、「相互の」あるいは、「共通の」を意味する接頭辞「co-」と「義務」や、「好意」を意味する「munus」であるとされています。かつての地域社会は、農業、林業、水産業などの一次産業によって形成されていました。そこでは住民同士の共同作業や交流を深めるためのお祭りがあり、決まり事や制度がありました。ところが人口が減少し、経済が縮小すると共同体として機能がなくなり、お祭りのような交流機会も失われて、コミュニティが崩壊します。すると、労働を担う若者などが人口の集積している地域に流出し、地域では高齢化、過疎化が進むことになり、空き家や耕作放棄地が増え、治安も悪化します。
地域社会には、一次産業をはじめ、貴重な文化や歴史など貴重な地域資源があります。これらの地域資源を保全するとともに、未利用の地域資源を発掘し、観光など新たな産業を生み出すことによって地域経済が活性化し、結果的に人口を増加させることができるのではないかと思います。地域資源の活用には、「若者」、「よそ者」、そして「馬鹿者」が必要だと言います。若者にとって魅力とは何かということを新しい視点や発想で探すこと、偏見や差別を無くし、移住者や外国からの労働者を受け入れることが人口増加の重要なキーワードです。
そして「馬鹿者」です。馬鹿とは個性的で、一般的な常識から外れた行動をする人に対する呼称ですが、革新的な発想やアイデアや行動はそのようなひとから生まれることがあります。
先日読んだ浅田次郎の訳あって旅をする二人の物語の中で主人公に向かってもう一人が「あんた、馬鹿か」と語りかけていました。思いが違っていても同じ目的を持っていることが共同体では重要です。他人にとって馬鹿な発想や行動でもそれを優しく見つめ、受け入れることによって人々は集まってきます。そうすれば少なくとも地域社会が活性化して人口減少を食い止めることになるように思います。

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