アスベスト問題:現代の建築物における対策と課題

アスベストの歴史と危険性

 アスベストは石綿(せきめん)と呼ばれ、蛇紋石や角閃石などの天然鉱物が繊維状に変形したものです。繊維は、髪の毛の5,000分の1程度と極めて細く、古代エジプトでは燃えない布としてミイラを包むなど、5,000年以上前から利用されていました。熱や電流の不良導体であることから建築物などの耐火材や保温材として広く使用され、日本では石綿消費量のうち、約93%を建材製品が占めているといわれています。

 ところが、石綿の繊維を吸入すると肺線維症(じん肺)や中皮腫の原因になり、肺がんを起こす可能性があります。また、石綿材そのものには毒性はないのですが、吸い込んだアスベスト繊維が肺の中に残り、肺の慢性線維症を引き起こすこともあります。

 そのため、日本では平成7(1995)年の労働安全衛生法施行令で、石綿のうち、アモサイト、クロシドライトの輸入、製造等が禁止になり、平成16(2004)年10月1日から労働安全衛生法により石綿含有建材、石綿含有摩擦材、石綿含有接着剤の輸入、製造、使用等が禁止となり、さらに労働安全衛生法の改正により平成18(2006)年9月から石綿を0.1重量%を超えて含有する製品の輸入、製造、使用等が禁止されました。

現代の建築物におけるアスベスト問題と対策

 しかしながら、建材などに大量に使用されてきたことから、建物を解体する前には石綿が使われているかを事前に調査し、使われている場合には、慎重に対応することが必要です。また、地震や津波などの自然災害によって被害を受けた建築物の解体等に伴って石綿が飛散することから、大気中の濃度をモニタリングすることになっています。アスベストが含まれている建築物の解体・改修・リフォームなどの工事では、作業する方が石綿を吸い込むと健康被害が発生することや、大気中に石綿が飛散するおそれがあります。そのため、労働安全衛生法に定められた国家資格である石綿作業主任者1人を配置することが義務付けられており、適切な石綿対策を行うことになっています。

 安全で便利であると考えられてきたことやものが、人間の健康や環境に重大な影響を及ぼすことがあります。随筆家としても名高い物理学者の寺田寅彦は自然災害(火山噴火に関する「小爆発二件」)に関するエッセーのなかで、「正当にこわがる」ということの難しさを述べています。私たちも何かを行うときには与える影響を可能な限り検討し、対策を講じて必要以上に恐れることのないようにしたいと思います。

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