その環境問題は、どこで起きているのか

地理学という視点が世界の課題を見える化する
地理学は、私たちが暮らす世界を「場所」や「位置」という視点から理解しようとする学問です。もともとは、未知の土地を記録し、地図として描き残す「記述の学問」として始まりましたが、現在ではデータやデジタル技術を活用しながら、社会や環境の課題を読み解く「空間の科学」へと発展しています。
古くから人びとは、自分たちの世界を理解するために地図を描いてきました。現存する最古の世界地図の一つとして知られているのが、紀元前600年頃に粘土板に描かれたバビロニアの世界地図(イマゴ・ムンディ)です。この地図では、円形の世界の中に陸地や海、都市や川が描かれ、当時の人びとがどのように世界を捉えていたのかを知ることができます。
また、南太平洋の島々に暮らしていた人びとは、椰子の枝や貝殻を使って海流や島の位置関係を表した「スティック・チャート」と呼ばれる海図を用い、広大な海を渡っていました。文字や数値に頼らなくても、自然の特徴や経験をもとに空間を理解していたことは、地理的な知恵の豊かさを示しています。
時代が進むにつれて、正確な時計や天体観測のための六分儀などの道具が発明され、大航海時代が訪れました。人びとは地球上の位置をより正確に把握できるようになり、世界の見え方は大きく広がっていきました。さらに20世紀になると、統計や数学の手法を用いて、人口の動きや都市の広がりなどを分析する地理学が発展していきます。
1990年代以降には、GIS(地理情報システム)と呼ばれる技術が登場しました。これは、地図とさまざまなデータをコンピュータ上で重ね合わせて分析する仕組みです。現在では、津波や火山噴火などの災害時における危険箇所を示すハザードマップや、効率的な物流や店舗配置の検討など、私たちの身近な場面で活用されています。
さらに、人工衛星やドローンを用いて地表を観測するリモートセンシング技術は、農作物の生育状況の確認や森林減少の監視などに役立っています。GPSなどの衛星測位システムは、カーナビやスマートフォンの地図アプリ、自動運転技術の基盤となっており、私たちの日常生活を支えています。
気候変動や環境問題、地域間の格差といった複雑な課題に向き合ううえで、「どこで何が起きているのか」を整理して考えることは欠かせません。地理学は、こうした問題を「位置」や「空間のつながり」という視点から捉え、解決の糸口を見つけるための有効な手がかりを与えてくれます。
地理学には、「なぜ、それはそこにあるのか(Why of where)」を問う学問である、という言葉があります。地図を眺めることは、世界の成り立ちや私たちの暮らしを見直すことにつながります。身近な地図から、少し視野を広げて世界を見つめ直してみましょう。

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