ウェルビーイングから考える共生のかたち

「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉は、「well(良い)」と「being(状態)」を組み合わせた言葉ですが、改めて、社会における「良い状態」とはどのようなものかを考えてみました。
かつて任侠映画で活躍した菅原文太は、「政治の目的は『国民が腹いっぱい食えること』と『戦争をしないこと』だ」といった発言をしたことがあると聞いたことがあります。彼は、ファッションモデルや個性的な役柄で映画界において活躍していましたが、晩年は都会を離れ、田舎で農業に取り組んでいました。
さて、政治とは、国家の主権をもとに、領土や資源を管理し、それに属する構成員をはじめ、他の共同体との利害を調整して社会全体を統合することです。ですから、「お腹いっぱいご飯が食べられて、争いがなく安心・安全に暮らせること」が政治によって守られるならば、社会は「良い状態」と言えるのでしょう。私たちの日常においても、そのような社会を「良い状態」として実感できるのではないでしょうか。少し加えるなら、健康で元気に生活できることも含まれるでしょう。
しかし、ウェルビーイングにおける「社会の良い状態」とは、もう少し深い意味があるようです。
もちろん、心身ともに健康で、平和で安心して暮らせることが「良い状態」ですが、それに加えて、人間関係やつながりを持ち、自己実現や意味のある生き方ができることも重要です。
たとえば地域社会においては、孤立することなく、多世代間の交流があり、互いを信頼し、尊重しあえる人間関係が築かれていることが、「良い社会」と言えるのではないでしょうか。
ところが最近では、家族や友人と一緒に食事をとらず、一人で食事をする「孤食(こしょく)」が問題視されています。核家族化やライフスタイルの変化によって、一人で食事をする機会が増えているのです。さらに、今年4月には内閣府が、昨年1年間に2万1000人余りが孤独死したとの推計を発表しました。この数字は、現代社会が抱える深刻な問題を表しています。
人間関係の希薄化により、高齢者の一人暮らしが増え、家族や地域とのつながりが薄れています。加えて、急速な高齢化によって介護や見守りを担う人々が不足していることや、経済的な理由も影響しています。誰にも気づかれずに死を迎えるというのは、人間の尊厳にかかわる重大な問題です。
地域社会や経済の維持が困難になるなかで、人々の生活にもストレスが増し、孤独感が深まり、精神的な疾患を抱える人も多くなっています。それに伴って、自殺やそれに関係する犯罪も増加しています。社会とは、本来、人間が共同生活を営む場であり、お互いに依存し、時に対立し、融和しながら成り立つものです。ですから、孤独が広がるような状況は、決して「良い状態」とは言えません。
では、良い社会にするためにはどうすればよいのでしょうか。
まずは、思いやりと共感によって他者を理解し、協力し合える力を育む教育が重要です。そして、市民一人ひとりが社会に参加し、ボランティアや地域活動に関わることで、社会の課題を「自分ごと」として捉えて行動することが、「良い社会」への鍵になるのではないでしょうか。
私たちが掲げているESGは、良い社会づくりと密接に結びついています。ESG経営は、単なる利益追求ではなく、持続可能な社会の実現に貢献します。
ウェルビーイングな社会づくりを担うのは、私たち一人ひとりの取り組みです。ともに、できることから始めていきましょう。

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