現代に生きるアリとキリギリスのわたしたち

子どもの頃、イソップの童話『アリとキリギリス』のお話を読まれた方もおられると思います。
夏の間、楽しげにバイオリンを弾いているキリギリスは、炎天下で汗をかきながら重い荷物を運んでいるアリを見て、嘲笑っていました。
やがて冬になり、草原は枯れて食べ物が見つけられなくなったキリギリスは、アリの家を訪ね、食べ物を分けてほしいとお願いします。
アリはどう答えたでしょうか。
夏の間、楽しく遊んでいたキリギリスにあげるものはないと断り、キリギリスが死んでしまう結末と、優しく分けてあげて、反省したキリギリスが次の夏にはせっせと働くようになったというバージョンがあります。どちらも納得できますが、今の子どもたちはどちらの物語を読んでいるのでしょう。ちょっと気になります。
ところで、国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2023)改訂版」によれば、生涯未婚率は上昇傾向にあり、2020年には男性が約28%、女性が18%と過去最高となったようです。
これは、45歳から54歳の未婚者の割合から、50歳のとき未婚の人は将来も未婚であると推定したものです。
このままでいくと、2030年には男性の3人に1人、女性は4人に1人が生涯未婚となるそうです。
結婚することで必ずしも幸せになるとは限りませんし、日本ではいまだに結婚を認められていない同性のカップルもいるため、「結婚」ということに囚われるつもりはありません。
しかし、結婚をしない人が多くなることは、現代社会の大きな課題であるように思います。
株式会社しんげんの「SHUFUFU」が実施したインターネット調査によれば、結婚願望のない30代から50代以上の男性の特徴は「一人でいることが好き(72.2%)」「人から指摘や干渉されたくない(41.7%)」とあります。
一方、女性は社会進出が進んでいることや、仕事以外の趣味などライフスタイルが充実していることが、結婚しないことを選択する背景にあるようです。
ところが、独身者の老後には課題があることを考えておきたいと思います。
内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年実施)」によれば、同居人のいない約55%が「孤独を感じている」という結果が記されています。
確かに現役の間、仕事を優先し、勤務先の人々とのネットワークだけで、仕事関係以外の友人や親族との関係が希薄だと、退職後に社会的に孤立するおそれがあります。
これは、認知症をはじめとした健康問題にもつながります。
さらに、経済的な問題もあります。
独身者は収入が一人分だけなので、退職後の年金収入が少なくなることや、病気や介護が必要になった際の費用をすべて自分一人で負担しなければなりません。
また、怪我や健康問題が発生したときには支援してくれる家族がいないことから、施設に入居する必要が生じます。
かつては兄弟姉妹も多く、従兄弟などもいましたが、今は身寄りが少ないために、身元保証人がおらず、医療・介護施設に入所しにくくなるなどの問題があります。
最悪の場合には、孤立死のリスクも発生します。
住まいにおいても、高齢者、特に単身の場合には賃貸契約を断られることがあるようです。
持ち家であっても、バリアフリーでない場合は住み続けることが難しく、維持管理もできなくなるおそれがあります。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」によれば、単身世帯の高齢者は2050年には1,084万人になるとされており、65歳以上の未婚者は現在の3倍以上のおよそ700万人に増加する見込みです。
介護サービスの手続きや終末期医療の意思決定、財産の処分、さらには死亡した後の対応などの課題もあり、高齢者、特に単身者にとって快適な社会システムとすることが必要となります。
ところで、アリとキリギリスの話ですが、サマセット・モームは、同じタイトルで勤勉な兄と放埒な弟の物語を書いています。
弟は資産家の老婦人と結婚し、苦労することなく多くの財産を受け取りますが、一方で、苦労を重ねて蓄財した兄は「不公平だ」と叫びます。
現代のアリとキリギリスであるわたしたちは、どのような社会にいるのでしょうか。
個人的には、お腹を空かせたキリギリスに食事を与え、キリギリスが改心して勤勉に働くようになる社会が理想だと思いますが、いかがでしょうか。

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