地域を、企業を、そして私たちを強くするソーシャル・キャピタル

ハーバード大学ケネディスクール・教授、ロバート・パットナムは「社会的な繋がり(ネットワーク)」とそこから生まれる「規範・信頼」と「共通の目的に向けて効果的に協調行動」へと導く社会における特徴を「ソーシャル・キャピタル」と定義しています。日本語に直訳する「社会資本」となりますが、日本では道路、空港、港湾などの社会基盤(インフラ)を社会資本と呼んでいますので、「社会的資本」、「社会関係資本」などと訳されています。
パットナムは垂直的なネットワークがどんなに密であっても社会的信頼や協力を維持することはできないが、地域社会の取り組みやスポーツクラブなどに市民が積極的に参加することによって形成される水平的なネットワークが密になると市民は相互利益に向かって幅広く協力すると考えました。これは1990年代後半のアメリカでは、地域の仲間と毎週、”リーグボウリング”に興じている姿が減って、個人でプレーする人が増えていることを研究テーマである社会関係資本の減少と結びつけたのです。
近年、地域社会においてボランティア活動など市民が主体となった活動の重要性が再認識されており、こうしたソーシャル・キャピタルが注目されています。ソーシャルキャピタルとは、地域や社会における人々のつながりを資本、すなわち活動の原点として捉えるもので、地域や社会の持っている力(パワー)を示しているのです。
例えば、地域のなかで同じような意識を持っている人たちがつながることによって地域の安全性や価値が高まり、地域の発展に繋がります。とりわけ人々が地域のネットワークに参加することによって地域における人間関係が豊かになり、個人の心身に良い効果がもたらされることが期待されます。さらに、最近では、気候変動に伴う台風や洪水などをはじめ地震や津波など、さまざまな自然災害が頻発し、大きな被害が各地で発生していますが、防災・減災への取り組みとして、ソーシャル・キャピタルの活用が注目されています。食料などを事前に備蓄し、発災後は、避難所を設置するなどのハード面の対策だけでなく、突然、襲ってくる自然災害に備えて、常に被害の発生を意識して、人々が互いに助け合うソフト面での対策として人々の繋がりを強めようということです。
また、企業経営においてもソーシャル・キャピタルは重要です。例えば、2003年にアメリカ産牛肉のBSEが発覚したことによって、米国産牛肉の輸入が禁止となるなかで牛丼を販売しているチェーン店では牛丼の提供を中止し、別の商品へ転換を進めていくなかで、株式会社すき家はいち早くオーストラリア産牛肉に切り替えて牛丼の販売を継続しました。すき家は以前から食の安全性を最優先させており、消費者と企業との間で強い信頼関係があったことから、このような取り組みに対して消費者の理解を得ることができたのです。これはソーシャルキャピタルによるものであるとされています。
ソーシャル・キャピタルの重要な点は、まず人と人とが信頼しあっているかどうかということです。さらに人々がネットワークでかかわり合い、互酬規範と呼ばれる助け合いが成立しているかどうかということで、人々の相互の協力関係が促進され社会が円滑に機能するための潤滑油になるということです。
ソーシャル・キャピタルは企業経営や地域づくりにとって大切な「資本」、すなわち事業活動などの元手なのです。
(参考)
・ロバート・D. パットナム著、柴内康文訳、孤独なボウリング: 米国コミュニティの崩壊と再生(2006)
・上田 和勇(2010)、現代企業経営におけるソーシャル・キャピタルの重要性、社会関係資本研究論集 第1号

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