コメ不足にみる温暖化の現実

空のコメ売り場が映し出す温暖化の危機

 収穫の季節を迎えましたが、この夏は日本各地で豪雨による被害が相次ぎ、農作物への影響が懸念されます。また、この夏はコメ不足となり何軒か探しまわっても購入できないことがありました。コメ不足にはいくつかの原因があるようですが、基本的に農業は自然環境に大きな影響を受けます。今夏のコメ不足の原因は、昨年の平均気温上昇による収量の減少、特に品質の悪いコメを取り除いたため歩留まりが良くなかったことにあるようです。

 宮沢賢治の童話『グスゴーブドリの伝説』の主人公、ブドリはイーハートーブで生まれましたが、そこは岩手県東部がモデルです。物語は、冷害に苦しむ人びとの姿が描かれています。実際に東北地方は20世紀初めの明治38年、39年に深刻な冷害に見舞われており、当時10歳であった賢治はその経験を踏まえて物語を描いています。冷害から農作物を守るために火山を爆発させれば、炭酸ガス(二酸化炭素、CO2)によって地球全体の気温が5℃上昇すると主人公ブドリは考えました。

 ところで21世紀の現在、地球は温暖化が進み、国連のグテーレス事務総長は2023年に地球の気温が急激に上昇していることから地球は「沸騰」していると表現しました。今世紀末には地球の平均気温が1.5℃から2.0℃上昇すると予想されています。温暖化の原因のひとつには、エネルギー消費に伴って大気中のCO2濃度が上昇していることにありますが、いますぐに排出を削減しても大気中のCO2 は森林や海洋が大幅に吸収してくれることはないので、今後も温暖化の影響は避けることはできません。農作物への影響は、世界の食糧事情に大きな影響を与え、飢餓や食糧の奪い合いによる紛争の発生が懸念されます。食料自給率が、40%に満たない日本でも深刻な影響を受けることになる可能性をわたしたちは認識しておかなければなりません。

 温暖化対策は、大きく分けて、緩和策と適応策のふたつがあります。緩和策は、エネルギー効率を向上させ、植林や森林の保全によってCO2の排出を削減し、吸収させることであり、適応策は、温暖化を前提として、農作物の品種改良や社会の仕組みを変革していくことです。
ブドリは、最後に自分の命をかけて冷害から農民を救います。現在の状況は、冷害とは異なりますが深刻な自然環境の変化である温暖化の影響が顕在化しています。命をかけることまでは許されませんが、持っているすべての知恵や知識、そして資源をすべて使って対策を進めていくために世界のステークホルダーであるわたしたち一人ひとりが意識を変革し、行動していかねばならないのだということを、空っぽのコメ売り場をみつめながら思いました。

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